モヒカン連載、はじめます!
髪を切ろうかなあ、と一週間くらいのあいだ、考えていました。
友達がちょっと前からさらっと黒髪ロングにしていて、私はこっそり、いいなーうらやましいなー、と思っているのですけど、なかなか髪質の溝というのは埋めがたい。
土山の更新がさっぱりですねこのサイト。いい加減、書きかけの冬の話の決着をつけて、なんとかしたいところです。
すでに三月半ば。印刷所の〆切まで、あと一カ月しかない!
お茶を濁すために、不定期ブログ連載をします。お茶も濁せない、なんかもう、すべてがぐちゃぐちゃのパラレル(でもこれずっと書きたかった)デスヨ! 気をつけて!
ロンドン音楽話(長くなるだろうけどちゃんと終われるかどうかわからない、今のところ土方さんも出てこない)土山、です。
山崎がモヒカン、というところしか原作の要素を取り入れていません。みんな外国人。江戸のかけらもない。
ほんとうにほんとうにお暇なら、続きからどうぞ^^
気をつけて!
山崎→ジミー
シルヴァー→坂田さん
シン→高杉さん
ヴァン→万斉
という、ネーミングセンスのかけらもない名前になっています。
地下鉄のうす汚れた壁はガムがひっついた跡や落書き、ライヴハウスのフライヤ-でいっぱいだった。カムデン・タウンまでほとんど眠りっぱなしだったけれど、匂いでわかる。ぜんぜん違う。
生まれた町を出るのに持ってきたのは古ぼけた旅行鞄と何枚かの下着。それからギターだけだった。缶詰工場の仕事のあと、ガススタンドのパートタイムを三カ月、毎日続けてようやく手に入れた。
ジミーは重たい10ホールのかかとを引き摺るようにして階段を上った。陽が落ちかけていて、真冬みたいに風がつめたい。剃りたてのこめかみのところが、やぶれそうにひりひりした。
ロンドン。何もかもがあって、ほんとうは何もないかもしれない街。真っ暗な夜のなかにはネオンライト、ジンジャーエールの瓶のなかには危ない薬。
グリッターで彩られた絶望と死がある街だ。
ジミーはロンドンの埃っぽい空気をすうっと深く吸いこんだ。こわいような気もしたし、焦りもあった。挑むような気持ちも、たしかにある。
探してみりゃあいいじゃねーか。こんなつまんねー町で、いつまでもくすぶってんじゃねえよ。
男の、寝ぼけた声を思い出した。ズブロッカをのみすぎて、ぶっ倒れるちょっと前のことだ。
開いてるときのほうがすくないパブで出会った男は、ずいぶん簡単に、抱え続けたもやもやを晴らしてしまった。
その男の名はシルヴァー、探偵だ、と言っていた。ジェームズ・ボンドにときどき手を貸してるなんて、そんなのうそっぱちに決まってる。
けれど、取り残された田舎町で頼れるのは、その男だけだった。母さんはパンクとドラッグをまるで悪魔か何かだと思っていて、俺のレコードを全部割ってしまった。悪魔を家から追い出そうとしたんだ。でも、もう手遅れだった。
ジミーはポケットに手を突っこんで、一本のテープを引っ張り出した。母さんの言う通りかもしれない、と思った。
テープに吹き込まれた音楽はジミーをすっかりとりこにしてしまった。それはたしかに悪魔と呼ぶにふさわしかった。けれど、ジミーには神様だった。スーパースターだった。魂を捧げてもかまわないとさえ思った。
だからあの夜、列車に乗って、町を出たんだ。
通りに出ると、鉄がむき出しになったワーゲンが路傍のすみの積み上がっていた。あかりのついたパブやダンスホールに着飾った女の子たちや、やぶれたシャツの男たちがぞろぞろ入って行くのが見える。
強いざわめきが道路じゅうに満ちて、逃げ道をなくした野良犬は同じところを行ったり来たりしていた。
ジミーはコースターの裏に書かれた地図と通りの名前を照らし合わせながら、うす暗い路地に入った。古着屋の角を曲がり、アパートメントが立ち並ぶせまい通りに出てまっすぐ。
「あ、ここだ」
一軒のライブハウスがあった。扉は閉まっているし、あかりもついていなかった。呼び鈴はないから、ドアを思いきりたたく。返事がない。すこしためらったあと、真鍮の錆びたノブを回して、ぐっと引いた。
「うわあっ!」
隙間から、息ができないくらいの音がどっと溢れ出て、向かいの扉に押し付けられそうになった。暗い部屋はろうそくの、かすかな光しか見えない。
入口のそばに立つ、若い、ブルネットの男と目が合った。片目が、何か用か、と言っていた。
「すみません、ひとを探していて」
声は音にかき消えて届かない。男は気だるげに、手に持ったペールエールをあおった。
「ここの場所を、シルヴァーに聞いて」
「なんだって? おまえ、今」
「ブライトンの! シルヴァーって男に! ここの場所を!」
声が聞こえるように精いっぱい叫ぶと、男に胸ぐらを掴まれた。小柄だけど、ものすごい力だ。殴られると思ったから、思わず目をぎゅっとつむった。
でも男は殴らなかった。かわりに暗がりに向かって合図を送り、音を止めた。ジミーはゆっくり目をあける。切り傷みたいな瞳がまっ黒の光を放っていた。
「おまえ、あいつの知り合いか」
「うん、まあ、そんなとこ。あんたがシン?」
実際のところ、こわかった。だけど舐められちゃいけない。ジミーは平気なふり取り繕って、鞄から一枚の紙切れを取りだした。
「これ、手紙、預かってきたんだ。渡してくれって。あ、もちろんなかは見てないよ」
男はさっと目を通して、くちびるを噛むみたいにした。もしかしたら、笑ったのかもしれない。
「しばらくのあいだ、泊めてほしいんだ。シルヴァーから何か聞いてる? 話してくれるって言ってたんだけど」
黙ったまま、シンは紙をくしゃりとまるめて、床に放った。
「あの、でももちろんお金も払うし」
「いい。そのかわり、俺たちの仕事に手を貸してもらう。いいな」
わけがわからなかったけれど、とりあえず部屋に入れてもらった。ビールと煙草とお香の匂いが立ちこめている。
「おまえ、名前は」
「ジミー」
「ジミーか。すげー髪型だな」
シンは部屋にあかりをつけてから、巻煙草を取り出してオイルライターで火をつけた。部屋の奥に、サングラスをかけた背の高い男が立っている。
「えっだってロンドンじゃ、みんながモヒカンだって」
「ハッ、あいつのしわざか。からかわれたんだよ。今どきそんな奴、ひとりもいねーさ」
シンは片目をほんのすこしだけ細めて笑った。でも、ぜんぜんいやな感じじゃなかった。
「ヴァン、新入りだ。角の部屋に案内してやれ」
呼ばれたサングラスの男が、片手をすっと上げた。それからゆっくり近づく。
「仕事は明日からだ。とりあえず、荷物を置けよ」
これから始まることが、いったいどんなものなのか、さっぱりわからない。でも、缶詰工場の暮らしよりは、たぶん、ましだと思う。
「ありがとう」
ジミーはヴァンのあとに続いて地下へ降りた。残響のせいでめまいがした。心臓をひと射しにされたような感覚が、まだ背中のあたりに残っている。
ずっと、それを求めていた。階段を下りる靴音さえ、青い炎をゆらめかせているようだった。
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