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微妙なおはなし

ちょっとご無沙汰しました、ゆりこです。
来月のスパーク、合同で参加させてもらうことになり、せっせと本を書いています。
ごはんの本です。今度こそ!

拍手やメールなど、ほんとうにありがとうございます!
うれしいです^^ 更新でお返しできるよう、がんばります!

続きに、ちょっと微妙なお話を、置いています。
ねつ造3Z設定、しかしながらなんの3Z要素もないこの話。原田と篠原は銀魂美術大学(通称たま美)の四回生、というなんなの設定。
篠(美大生)→鴨(写真館のひと) 原田は友達、そのほかは高校生。3Z土山につながったらいいな。
篠原くん、ほんとうにわからない。というか、本誌で吉村くんをはやく出してほしい。
監察! 監察!

設定がめちゃくちゃで、たいへん読みにくい代物ですが、読んでくださるかたは続きからどうぞ^^
 

たかが知れてるアルバイトの給金を、貯めにためてようやく買ったビーチクルーザー。ほんとうは真夏が似合うと思うけれど、九月になってしまった。
無理やりくっつけた荷台は、六割の純情と三割の作戦、残り一割は願掛けだ。先生とふたり乗りがしたかった。
それなのに!
どうしてつるぴか外国かぶれが、荷台にもっさりのっかっているのか、俺にはさっぱりわかりません。
しゃれた名前の自転車と、言われてしまえばそれまでだけど、あのひととふたり乗りがしたかった。
「いってぇ! 篠原、段差! いってぇよ!」
「うるさいですよ。そんなに痛いなら、歩けばいいでしょうよ」
「俺の下宿までどれだけ歩くと思ってんだよ」
おまえしかいないんだ、チャーリー助けてくれ。そう言って、ほとんど勝手に荷台に乗った、インテリア専攻の原田とはどうしてか、入学当初から仲がよかった。
チャーリーとは、つるぴかけだもの語で自転車通学をしているやつ、のことらしい。彼によれば、俺たちはチャーリーズなのだそうだ。どうでもいい。
銀魂美大、四回生の彼は、あろうことか就職活動もしないで、ふらふらしている。毎日通ってやっとのことでパートタイムの仕事をもらえた、と中華屋で三時間半聞かされた話からすれば、卒業後も

その北欧家具屋で働くらしかった。それだってどうでもいい。なぜなら俺は今、とことんまでに傷心だから。
「あ、篠原くんよう、スーパーよってくれねぇ?」
「は、もう過ぎました」
「うん知ってる。けどさ」
変な方向にからだを倒すから、ぴかぴかのビーチクルーザーがきいきい音をたててよろめく。
「わかったわかりました!」
「ポップコーンとビールだな」
俺たちは、午後の講義をやめにして、原田の下宿へ向かっている。学内で、俺がゲイだってことを知っているのは原田だけだった。真冬の喫煙所でうっかり話してしまった。
家賃三万八千円。破格だけれど、ここにはちょっと住めそうもない。子供なんか見たこともないのに、雨ざらしの三輪車が玄関先にとまっている。俺の知る限り、三年くらいこのままだ。
スーパーマーケットのビニールをかさかさ鳴らしながら、原田は器用に鍵をみつけた。意味がわからないが、鍵束には十個くらいの鍵がひっついていて、重たそうだ。
道に落ちてる鍵を拾ってくっつけていたら、いつのまにかこんなに増えてしまったらしい。原田はへんな趣味が多い。
まったく。ちかちかする色のメキシコラグが敷かれた四畳半には、鹿のもようの毛布が寝床らしき格好でぐずぐずまるまっていたり、作りかけの課題が部屋中に散らばっていたり、あほみたいにでかいテ

ーブルが台所を埋め尽くしていたりして、暮してゆくことさえままならない有り様なのだ。
「まあ、座れよ」
ゴダール映画のDVDとトーベヤンソン全集、変な服、アフロのかつら、変な服のすきまを見つけて、俺は腰を落ち着けた。ぜんぜん落ち着かないけれど。
「それで」
「……それでも何も」
先生は、突然、なんの前ぶれもなく、ほんとうに突然、姿を消した。
写真館には、長い間、ご愛顧ありがとうございました、の張り紙があった。きれいな、あのひとの字で、だから、泣けてしまった。今朝。
しかたなく腫れたみっともない顔で、授業を受けた。性根の悪い教授の、必修科目がなかったら、学校になど行かなかっただろう。
原田に会うやいなや、世界のおわりのようなことを、二、三口走ってしまった。後悔している。
「何も、知りません。俺は先生のことを、そういえば、何も知らない」
電車の音がうるさい。駅から遠いくせに線路のすぐ近くだから、上下線がゆきかうたびに、うすい板でできたアパートメントは、かたかた貧乏ゆすりをはじめる。
まる一年、片思いをしていた。おなじ頃片思いをしていたアルバイト先の先輩は、半年前に成就したらしいけれど、俺はそのあとも、片思いをし続けた。
「どんなひと?」
こんなに好きになったのは、はじめてだった。女の子はきれいだけれど、さわりたいとか、ふれたいとか、思わなかった。もちろん苦しんだし悩んだ。でも、だれにも理解してもらわないでいい。
でも、違ってしまった。先生に知ってほしいと思った。たくさんのことを、わかち合いたいと思った。写真や、ファインダーの向こうの、ゆれる光のことを。路地裏の、美人の猫のことを。俺のことを。先生の

ことを。
臆病だから、そんなことはとても、言えなかった。
「美しいひとでした。あたまがよくて、清廉で、涼やかなひと」
「へえ、さすが日本画専攻。詩人だな。でもそれ、なんかさ、死んだひとみてぇな言い方だなあ」
原田は俺のキャスターマイルドを一本取って、真鍮のジッポーライターで火をつけた。不細工な輪っかが、ふわふわただよう。
こぜまいベランダには、もう夜が降りてきている。
「これから知ったらいい。死んだわけじゃあねぇんだろ。電話するとか、あるだろ」
「ばかだなあ、原田は。会って、どうするんです。ふつうのひとに、俺はゲイです、なんて言えませんよ。こっぱみじんだ。だから、会ってどうこうってわけじゃない」
俺たちは、寂しい夕暮れをどうにも持て余してしまった。ビールひと缶じゃあ、とても酔えない。だから駅前の焼き鳥屋で、本式に酔っぱらうことになったのだ。
 

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